日本の全市区町村のうち4割以上が、在日外国人向けの日本語教室のない「空白地域」になっているという。教師が東京に集中するなど地域的な偏りが顕著だ。コロナ禍の入国制限が緩和され、外国人の来日が再び拡大している。政府は人手不足対策として、外国人材の活用を図る動きを加速させている。だが、彼らを社会に受け入れる素地は整っているか。日本語教室を巡る現状を探った。(北川成史、西田直晃)

◆高田馬場では大学生らが活動

9月中旬、任意団体「Villa Education Center(VEC)」が毎週日曜日に開く日本語活動にお邪魔した。

2014年に始まった活動は同月、400回を超えた。各回2時間の内容を計画し、進行を担う「ファシリテーター」は、東京女子大で日本語教育を専攻する学生や卒業生らが務める。

活動はフィールドワークも取り入れている。この日のテーマは「公衆電話」。参加者はファシリテーターのクイズに答えながら、公衆電話が減った背景や災害に強い利点を日本語で話し合う。グループに分かれ、街で公衆電話を使った後、部屋で感想を発表した。

ミャンマー人で自動車部品輸出業チョーチョーアウンさん(40)は09年に来日し、11年の東日本大震災を東京で経験した。「当時、故郷に無事を伝えたかったが、携帯電話が通じずに困った。こういう勉強は役に立つ」と振り返った。

活動は和気あいあいとし、笑顔が絶えない。終了後は毎回、近くのミャンマー料理店で参加者とファシリテーターが昼食を共にし、親交を深めている。

インドネシア人で、技能実習生をサポートする監理団体で働くリリ・ルクマナさん(27)は「VECは日本語で話す機会が多いので、上達につながる」と通う理由を説明する。

この日初参加のプェイユーサンさん(27)は8月に日本に来たばかり。ミャンマーで看護師だった。来日は21年に起きた軍事クーデターと関係している。

「軍に抗議してストライキをする『市民不服従運動』に加わり、仕事を離れた」と明かす。軍の弾圧が強まり、日本に渡航。クーデターを受けた緊急措置で、日本政府が在日ミャンマー人に与える6カ月間の「特定活動」の在留資格を取得した。母国の先行きが見えないため、当面は日本で働きながら暮らすつもりだ。

◆月謝は抑えめ、運営費に不安抱え

ファシリテーターで東京女子大大学院生の渋谷こはるさん(24)は「『教える、教えられる』ではなく『学び合う』を大切にしている。ルーツや来日の事情が多様な皆さんにとって、VECが温かい居場所であってほしい」と願う。

活動を統括する東京女子大の松尾慎教授(日本語教育)は「全ての人が『参加できた』と思えるように努力をしている」と語る。

外国人の月謝は2000円に抑えている。現在、15人余りが継続的に顔を出す。クーデター後、帰国しづらくなったミャンマー人が増え、毎月数人が参加希望で新たに訪れるという。

地道な歩みの一方、不安もある。月謝のほか、活動に賛同する企業や個人の会費、文化庁の地域日本語教育に関する助成金が運営を支える。だが、助成金は本年度が期限だ。来年度、別の助成金を得ないと月謝の額にも影響が出かねない。

松尾教授は「助成金の申請作業は大変で、私たちのような小規模の団体では担当者が疲弊する」と漏らす。町の日本語教室を取り巻く不安定な環境が浮かぶ。

◆日本語教師の3割が東京に集中

文化庁によると、22年11月現在、全国約1900の市区町村のうち44%が、外国籍住民のための日本語教室のない空白地域になっている。

全国の日本語教師約4万4000人、日本語学習者約22万人のうち、ともに約3割が東京に集中している。なお、教師総数の半分近くをボランティアが占める。

文化庁地域日本語教育推進室の担当者は「教室や教師の偏在は大きな課題。外国人住民向けの日本語教室の開設を後押しする必要がある」との見解を示す。